たまに参加していたアイドル短歌企画「J31Gate」に寄せた短歌をまとめました。解説つきです。
初参加は2021年7月。それまでもJ31Gateのことは存じていましたが、自分の短歌を発表する場はTwitterで十分だろうと思っていたことと、多くの方が目にする企画である以上明るい短歌を出したいという気持ちがあり(しかし私の短歌は暗いものが多いので理想とするものがなかなか詠めない)、参加するには至っていませんでした。が、主催である鷹野しずかさんとのご縁が繋がったことで背中を押されたような気がして&ちょうど気にいるものが詠めたので参加しました。
第18回「音」
039:君の名は月光が海に落ちる音 わずかに跳ねて静かに沈む
(加藤さん)
加藤シゲアキと口に出してみてください。ほら、月光が海に落ちる音がしますね。そういう短歌です。ロリータの冒頭みたいな。
「か」はkの子音が光の生まれる瞬間のようだし、「とう」はoの母音からものが下に落ちていく印象を受けます。「し」は水面を少し滑る音、「げ」の濁音で一度跳ね、「あ」で再び水面に触れ「き」で静かに沈んでいきます。
企画に出すものはなるべく明るい短歌を、少なくとも暗さに支配されない短歌を出そうと心がけているんですが、私らしさと明るさが共存したいい短歌になったなと思っています。広い海のうえに月が浮かんでいる風景が浮かんでくるところも気に入っています。
第19回「夏」
043:若者の夏は輝く 焦燥と、それより少し多い希望で
(加藤さん)
かつての加藤さんを想って詠んだものです。若かりし頃の加藤さんを見ると若さゆえの焦燥と若さゆえの希望を感じます。今の加藤さんはもっと希望に満ちていて、一面の麦畑のようなあたたかさもあるなぁと思います。
第22回「ショウ」
022 :夢で逢いましょう あなたが思うよりずっとあなたのことが好きだよ
(NEWS)
シンプルにそのままの短歌。不特定多数のアイドルに当てはまることかと思いますが、あえてNEWSの歌だとすることに私なりの意味があります。
私たちはきっとNEWSが思うよりNEWSのことが好きだし、NEWSはきっと 私たちが思うより私たちのことが好きなのだと思います。どちらを主体としてもこの短歌が成立することが、私はとても嬉しいのです。
また、「そのひとが夢に出てくるのはそのひとが私のことを好きだから」という解釈が古い歌にはあるよという話を古文の授業でしていたなぁと思い出して、そのあたりも込めての「夢」です。と同時に、「夢」=コンサート(NEWSと私たちが心を通わせることのできる空間)のことも指しているように取れるかなとも思います。ね。夢で逢いましょう。
「ショウ」というお題をみて真っ先に「夢で逢いましょう」というフレーズが出てきました。たぶん森博嗣先生の作品『夢・出逢い・魔性 you may die in my show』のせいです。美しいタイトルですよね。
第23回「雪」
127:ペンギンになる夢を見た 雪の日の極意をきみに授けてあげた
(アイドル名なし)
私といえばペンギン、みたいなところありますよね。ペンギンが出てくるアイドル短歌も詠みたいなと思っていたので、「雪」「ペンギン」ありきで詠んだものです。ちょうど東京も雪が降ってペンギン歩きがどうのと言われてるのを見たもので。
これもまた夢なんですけど。夢好きなんだな私。ふつうの短歌として詠むと片想いなのかな〜とかかわいい様子も想像できますが、アイドル短歌であることによって「きみ」=対話することが叶わない相手になるのが残酷で気に入っています。そのうえこちらがなにかを教えるわけなので。そんなことってないじゃん。でも夢ならありえるし、夢でしかありえない。なるべく明るい短歌をって言ってたけど、これは字面が明るくてかわいいのでOKとしました。
第24回「人」
058:人間の醜さと愛しさについて頁をめくり君と話した
(加藤さん)
加藤さんと小説の短歌を詠みたいと思っていて、前回の「雪」でうまくいかなかったのでリベンジしました。さっきはアイドル=対話することが叶わない相手って言いましたけど、そのひとが書いた小説を読むことで対話できるんですよ。両者は矛盾しません。
登場人物たちの言動が彼の思いを代弁しているとは思っていませんが、作品を通して受ける印象は彼の思いと一致する部分があると思っています。どの作品も、人間の醜さと愛しさを描いている気がして。人間って愚かで醜いね、でもそれと同じか少し多く愛おしいよね、と。そんなこと言ったら世の中の大抵の小説がそうかもしれませんが、他でもない「私」が他でもない「彼」の作品からそういった印象を受けたということが重要なんです。
ちなみに「頁」は「ページ」と読みます。ルビを振らないのはわざとです。私と彼のあいだではルビは必要ないので。
153:離れたらまた会えばいい 僕たちはひとのかたちをしてる彗星
(アイドル名なし)
J31Gateは第24回を以て無期限のお休みになるとのことで、その最後の一首となれたことを嬉しく思います。
まさしく今の私がそうなんですよ。軌道的にちょっと離れているんですよね。生活が非常に忙しく、金銭的身体的そしてなにより精神的な余裕がないのでいろんなもののファンであることをお休みしています。無理をして追っても心と体に良くないので。いつかまたファンを名乗れるか、今はまだわかりません。心の距離も、今までの私と私の好きな人たちの距離とは同じではないので。これは一方的なわがままなのですが、ここ2年ほどのあいだに「私には寄り添ってくれないんだな」と思う出来事がありました。わがままで、非常に傲慢です。アイドルは私のために活動しているわけでも、私のために存在しているわけでもないのに、そんなことを思うなんて。傲慢ですね。でもそう思ってしまったんです。
きっと、お互いの軌道が今は並んだり交差したりしない位置で周回しているのだろうと思いました。私たちはお互いにひとのかたちをした彗星で、今はちょっと離れているんだなって。
でも、一度離れたということはまた会えるんですよ。私たちのあいだにある距離は縮めることもできる。
遠くから愛しています 僕たちのあいだに横たわるのは銀河
2021年に詠んだものです。どうしても私は私と好きなもの、私とNEWSの関係を宇宙に浮かべたいらしい。これほどに想っているので、きっとまたいつか彼らに手を振り彼らに手を振り返してもらうことができるでしょう。その日がきたら、また逢いましょう。
とはいえ私自身は生活を営み、たまに短歌を詠み、さまざまなものに転がりながら生きています。不安定な世の中ですが、あなたもどうかお元気で。私はどうにかやっています。