加藤シゲアキさんと友達だったらオススメしたいSFたち

 

 加藤さん、33歳のお誕生日おめでとうございます。

 こんな辺境のブログを加藤さんが覗くことなどないと思いたいのですが万が一エゴサに引っかかったりしたとき、できるだけ加藤さんにとって有益であろう情報を詰め込もうと思い、私からのささやかなお誕生日プレゼントとして、加藤さんと友達だったらオススメしたい(というかとっくにしているはずの)SFを挙げました。

 『夏への扉』や『華氏451度』等の海外名作SFを紹介したり『虐殺器官』のレビューを書いたり、最近では『三体』を読んでいたりと結構SFと親和性が高い人(SFに抵抗のない人)だと思うので。世の中には沢山面白いSFがあるんでね。読んでくれ。おおいに読んでくれ。

 

 

 

 

 

ベーシックインカム』井上真偽 集英社

 SF×ミステリの短編集。遺伝子操作やVRなどが出てくるタイプのSFで、実際にありそうな未来という設定を上手く活かしたミステリになっている。読者がもっている「世界の常識」が騙されるというか。最初から明確に示す情報と、隠しつつもよく読めば気づきそうな情報の配分もすごくいい。どの短編もばっちり騙しにきてくれるので、読者としては非常に気持ちがいい。

 まるで「読書」というアトラクションを楽しんでいるような気持ちになれる。私はミステリに対してはそういうギミックの楽しさも求めてしまうタイプなので、こういう作品は大好きです。

 『チュベローズで待ってる』はミステリ風味も味わえる作品だったけど、その系統をもっと深めて書くなら是非こういうミステリのギミックを楽しめる作品を沢山読んでほしいなって。あと単純に加藤さんが好きそうだな~って思った。

 それぞれの作品で余韻は残るものの、しめっとしそうな場面でも文章というか書き口がドライなので後を引かずに次の話を読めるのもいい。書き口はあくまでドライなのに最後に収録されている短編「ベーシックインカム」はエモの濁流だった。でもこのエモは数々のギミックによってつくられたものであって……というギミックのすごさを再認識する一冊。

 井上さんの作品は『探偵が早すぎる』も読んだけど、頭のいい人が書く文章というか無駄がない文章というか、そういう感じが特徴的だなと感じた。ミステリというのは状況の描写が重要になるものだと私は思っているんだけど、それがすごくいい感じなの。ギミックも楽しめるし、文章そのものも楽しめる、とてもいい作品です。 

ベーシックインカム

ベーシックインカム

  • 作者:井上 真偽
  • 発売日: 2019/10/04
  • メディア: 単行本
 

 

 

『ゲームの王国』小川哲 早川書房

 友達じゃなくても薦めちゃうかもしれないくらい良いので今すぐに読んでほしい。加藤さん以外の人にもめっちゃ勧めたい。私のイチオシなので。

 上巻の舞台はポル・ポト政権下のカンボジア。っていうとこの時点で「わからん……」って思ってしまう人もいると思うが、気にしなくていい。私はポル・ポトの名前くらいしか知らなかった。なんかすごくひどい状況、ということだけわかばいい。気になるワードがあったら検索してみるとより読みやすいかもしれない。SFではあるが、まるで歴史小説のような書き出しに驚くかもしれないが、これは紛れもなくSFなので安心してほしい。

 それなりに史実をなぞっているのか?という雰囲気のなか読み進めると、ロベーブレソンという村の話が出てくる。潔癖症で異常に頭のいいムイタックをはじめとして、輪ゴムの教えを聞く少年だとか泥と会話できる男だとかが出てくる。急に現実から浮いたように感じられて混乱するかもしれないが、そのギャップがまた面白いのだ。歴史的な背景を物語に取り込みつつも、これはエンタメ小説なんだと思う。異能の人たちは出てくるけど、異能バトルなわけではなく、日常のなかに非日常な能力をもった人間がいる、という話。あんまり「○○に似てる」と言うのはどうかなとは思うけど、伊坂幸太郎さんの『魔王』『モダンタイムス』あたりと近い部分はあるように感じられる。政治と異能という意味で。

 下巻では近未来のカンボジアが舞台となる。上巻の主要登場人物であったソリヤとムイタックもおばさんとおじさん。そこに新たな登場人物も増え、SF的ガジェットである脳波を使用したゲーム「チャンドゥク」も出てくる。物語は一体どこに向かうのか?あ~~~~~~思い出しただけでもう面白い。そんでラストね……最高なんだよね……これだけ壮大な物語がどこへ向かうのか?辿り着きたかったのは「そこ」でしかないよなって思っちゃうんだもん……

 上巻ではすぐに人が死ぬので、読んでいてしんどくなることもあるだろう。私も初めて読んだときはやりきれない気持ちでいっぱいだったし、これを読んだ先に何があってもしんどいな……と思っていた。でも全然違う!!!これを読んだ先にあるんだよ!!!!!!!この苦しさが必要なものだとわかったときの感動がすごく大きかった。これ言ったらネタバレになるから言えないんだけど……すごいんだよね……いいから読め……

ゲームの王国 上 (ハヤカワ文庫JA)

ゲームの王国 上 (ハヤカワ文庫JA)

 
ゲームの王国 下 (ハヤカワ文庫JA)

ゲームの王国 下 (ハヤカワ文庫JA)

 

 

 

『ゆるやかな世界と、その敵』伴名練 早川書房

 加藤さん、『三体』読んでるって言ってたけど『三体』読んだならこっちも読んでよって言いたい国内SFが山ほどあるよ……そのうちの一冊がこちらです。

 さまざまな種類の話を含んだ短編集で、どれもいい。めちゃくちゃいい。個人的には「美亜羽へ贈る拳銃」がめちゃくちゃよかった。「美亜羽」=「ミァハ」という名前で気づくかもしれないが、伊藤計劃『ハーモニー』のトリビュート作品である。脳へのインプラント施術により、愛する人へ向ける愛情を固定できるようになった時代の話。愛情を固定しているから気持ちがうつろうこともない。そんな世界で出会う、北条美亜羽と神冴実継というふたりの物語。「人が誰かを愛す」ということはどういうことなのか。それは単なる「気持ち」なのか、もっと物理的に解明できるものなのか。結末も含めて完璧と言いたくなるほど美しい話だ。タイトルが梶尾真治(こちらもSF作家)の『美亜へ贈る真珠』のオマージュになっているところも、いかに伴名練がSF好きかが伝わってくる。

 『ゼロ年代の臨界点』は1900年代(=ゼロ年代)にどのようにSFが書かれたか、という「偽史」である。偽の歴史。ありえないのに、もしかしたらそうなのかもしれないと思わせる文章で、決して長くはない話なのに読みごたえがすごい。淡々とした語り口でありながら、渦中にいる人物たちが強い感情を互いに抱いていたことが伝わってくる。

 最後に収録されている書下ろし「ひかりより速く、ゆるやかに」もすごくよかった。修学旅行生を乗せた新幹線とその内部だけが「低速化」する現象が発生する話で、主人公は修学旅行を休んだ男の子。どういう理屈で低速化するのか、どうすれば元に戻るのか。あるいは戻らないのか。これもまた、人が人に向ける強い感情がバチバチなのがいい。

 伴名練という作家は今現在単著のものは2冊しか出版されておらず、どういう作家なのか掴み切れない部分はあるが、描写の美しさとある人物が別の人物へ向けるとても強い感情を描くのが特徴的な気がする。なにも「恋」や「愛」とは限らない。複雑に絡まった、なんとも名付けようのない強い感情を描いていて、加藤さんそういうの好きだな……って思ったからオススメしたい次第です。単純にめちゃくちゃ面白いし。

なめらかな世界と、その敵

なめらかな世界と、その敵

 

 

 

『おもいでエマノン梶尾真治 徳間書店

 ふと「加藤さんってエマノン読んでないんだっけ?」と思った。あまりにも加藤さんが好きそうというか、加藤さんが読んでいそうな内容だったので。逆に読んでないんだっけ?くらいの気持ちでいる。

 『おもいでエマノン』に始まるエマノンシリーズ。最初の刊行は1980年代で、2017年にも新刊が出ている。エマノンというのは本作に登場する女の子の名前。名前というか記号というか。「NO NAME」の逆さ綴りで「EMANON」。そばかすがあって、やたら煙草を吸う女の子。彼女は「地球上に生命が誕生してから今までの記憶を全て引き継いでいる」と言う。エマノンというひとりの人間がそれだけ長生きしているということではなく、相手を見つけて子どもを産むとその子に記憶が引き継がれていく、というシステム。

 物語は大抵、エマノンに出会った人たちが彼女を語るという形式がとられる。私はそのなかでもエマノンに惹かれる男の子の話が好きでね……『おもいでエマノン』でいうと最初に収録されている話がそれです。

 イラストが鶴田謙二さんというのもいい。鶴田さんの描く女の子のかっこよくてかわいいところがすごくエマノンって感じがする。加藤さん、たぶんエマノンみたいな女の子好きだと思うよ。どう?エマノンシリーズにはエマノンに惚れる男がたびたび登場するんだけど、加藤さんもその一人なんじゃないか?って思うよ個人的には。

おもいでエマノン (徳間文庫)

おもいでエマノン (徳間文庫)

 

 

 

『人間たちの話』柞刈湯葉 早川書房

 これもすごく面白かった本。『横浜駅SF』の方の短編集です。いろんな世界観の話が詰まっていて、思わず笑っちゃうような描写も結構ある。いろんな世界で、いろんな生き方で、いろいろに生きている、まさに「人間たちの話」。

 最初の短編「冬の時代」は、ほぼほぼ滅んでしまった世界を旅する人間たちの話。近いテーマの物語だと「少女終末旅行」みたいな。ところで加藤さん、「少女終末旅行」はアニメ見ました?見てなかったら早く見てください。

 「たのしい超監視社会」はジョージ・オーウェルの『一九八四年』のような監視社会と現代のハイブリッドって感じの話。『一九八四年』を読んでいるとあの監視社会がどれだけ怖いかはわかると思うんだけど、そのうえで現代のあれこれを散りばめていてユーモラス(あるいはアイロニック)な作品でもある。

 あとはいきなり部屋の中に岩がある話とか、消化器官のあるやつは全員客!な宇宙ラーメン屋さんの話とか、透明人間の話とか。透明人間の話はこの短編のラストを飾っているだけあって考えるための種が仕込まれた話でもある。

 世界観のギミックだけでも十分面白い話が多くて、加藤さんにもこういう濃いめの世界観のSF書いてほしいなぁという気持ちが募る。特に私は「世界が終わる話」=終末ものとか「世界が終わったあとの話」=ポストアポカリプスとかがめちゃくちゃ好きなので……加藤さんが終わらせる世界、見たくないですか?私は見たいです。何卒、宜しくお願いします。

人間たちの話 (ハヤカワ文庫JA)

人間たちの話 (ハヤカワ文庫JA)

 

 

 

『天冥の標』小川一水 早川書房

 お寿司苦手な人がいたら、大抵の日本人は「人生損してる」って思うじゃないですか。私はお寿司食べられないんですけど。損なんかしてないわって思うんだけど、もしお寿司が食べられないことで人生損してるんだったら『天冥の標』読んでない奴も人生損してますよ。

 全10タイトル17冊なのでそれなりの量になってしまうので忙しいとなかなか読めないかもしれないんですが、序盤のほうは時系列もバラバラでさほど繋がってないので全部一気に読まなきゃ!という感じではないです。

 人間も、人間じゃないヒトも、宇宙大戦も星間移動も農業もパンデミックもセックスも終末もポストアポカリプスも、およそSFでやれそうなことはとにかく何もかもてんこもり。

 1巻はカドム(オーソドックスな人間で医者)とアクリラ(身体改造を施した種族で顔がいい)のバディが得体のしれないいきものに出会う話、2巻は1巻よりずっと前の時代に未知にして致死率も凄まじい感染症パンデミックに立ち向かった医者の話、3巻は宇宙海賊、4巻は性に従事する機械たちの話、5巻は宇宙で農業する話と人間を超越した存在の話……といった感じ。6巻~10巻は割と連続した部分があるので一気に読んだほうが面白いかな。

 作中ではめちゃくちゃ長い時間が経過するんだけど、その間ずっと「人間」は生き続けていて。勿論個体としては死んでいく者たちもいる。でも、ある個体がもっていた意志をその子孫である個体が(そうとは知らずに)受け継いでいたりして、「人間」といういきものの果てしない営みに思いを馳せたりする。このシリーズのなかでも「性」をテーマにした4巻と「農業=食」をテーマにした5巻はちょっと異質なんだけど、どちらも人間が生き延びていくなかで絶対に必要なものなんですよね。食わなきゃ個体として生きていけないし、生殖しなきゃ種として生きていけない。そういう部分にも触れているのが、このシリーズの面白さのひとつでもある。

 世界が想像以上の秘密をもっていて、読んでいるうちに少しずつヴェールを剥がされていくような感じ。あのときのあれが、このときのこれが、全部全部結びついていく。この読書体験は10巻17冊という圧倒的な量だからこそ体験できるものだし、その10巻17冊という量だけでなくそれぞれの質が凄まじいからまたすごい。加藤さんがこれを読んだとしても私と同じような読書体験をするかどうかはわからないけど、まぁ絶対面白いんで。 

 

 

『グラン・ヴァカンス 廃園の天使』飛浩隆 早川書房

 これもだいぶ前からずっと言ってるオススメ本のひとつです。

 緻密に計算されすぎたあまりにも美しい文章は、それだけでももう価値があるので、文章を書いている人には是非読んでほしいって勝手ながら思っちゃう。手編みのアンティークレースって見たことありますか?あれ、緻密で細かくて美しすぎて人間が手で編んだとは到底思えないようなものもあるんですけど、そういう美しさを文章でも表現できるんだ、って感じの美しさです。作者の飛さんってあまり多くの作品を書いているタイプの作家さんじゃないんだけど、こんな文章を書いてたらそりゃあ時間もかかるよなって納得できるような文章です。飛さんの作品、どれもめちゃくちゃ美しいんだけど、そのなかでもこれは群を抜いている。次点を選ぶなら短編の「海の指」かなぁ。

 人間が訪れなくなったVR世界に取り残されたNPC(ノン・プレイヤー・キャラクターの略。人間が操作するキャラクターではなくあらかじめ世界に組み込まれているキャラクター。RPGでいう「村人」みたいな存在)たちの話で、もうまずこの時点で面白いじゃないですか。で、このNPCたち、読んでいくと何やら「抱えている」らしいことにだんだんと気が付いていく。そうして、彼らの「世界」がそこを訪れる人間たちにとってどんなものだったのかが明らかになる。

 残酷さが美しさと同義になることってあるんですよ。NPCたちの世界は、残酷で美しくて、どことなく清い。めちゃくちゃ残酷だけど汚くないんですよね……いやもう本当に……残酷というか残虐なんですけど……清らかな一面も持ち合わせているから、そこから美しさが芽吹いている。物語と文章、双方の残虐さと美しさで読み手の感性をハックするような、そんな小説です。こんなヤバイ本が世の中にあるのに読まない人がいることが正直信じられないけど感性がハックされちゃうからな……ハックされてもいい人は是非読んでほしいです。

 ちなみに続編『ラギッド・ガール』を読むと『グラン・ヴァカンス』の世界がなんだったのかが明らかになります。 

 

 

 

 

 あと加藤さんはいつになったら「輪るピングドラム」観てくれるんですか?いい加減に観てください。観たよって言ってくれたら「運命の果実を一緒に食べよう」ってうちわ持つので。

 

 こんな記事でお誕生日を祝うのもどうなのよと思うのですが、冒頭にも書いたけれど、ささやかなお誕生日プレゼントのつもりです。本当だったらここに挙げた本一通り買ってプレゼントボックスに放り込みたいけど箱ないからさ。

 

 33歳のあなたが沢山の幸せを掴めますように。