君と僕の境界線:読むタイプの地獄「ダブル」

 漫画「ダブル」を激推しする記事です。こんな記事読んでる暇があったら「ダブル」読んでくれ。2週間限定で全話無料です。あと7日なんで!読んで!

 私にとって創作に対する「地獄」は誉め言葉です。特にこの漫画に関しては。

 

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あらすじ

無名の天才役者・宝田多家良と、その才能に焦がれ彼を支える役者仲間の鴨島友仁。ふたりでひとつの俳優が「世界一の役者」を目指す!『潜熱』の野田彩子が描く、異色の演劇漫画、開幕!!

 とある劇団に所属する2人の男、友仁と多家良をを中心とした物語。上に漫画掲載ページのあらすじを引用したんだけど、こんなあらすじじゃ地獄が伝わってこねえよ!!!という気持ちでいっぱい。そんな……ふたりでひとつの俳優が「世界一の役者」を目指すって……そんな少年漫画みたいに夢や希望を膨らます話じゃないんだ……目から摂取する読むタイプの地獄です。

 

 

 

・ふたりでひとつが崩れていく

 「ふたりでひとつ」は崩れます。最初のほうで彼らがいかに「ふたりでひとつ」かを見せつけておきながら、途中からどんどん距離が開いていく。多家良の役作りには友仁が必要だし、生活そのものにだって必要で、べたべたすぎて切り離せないように見えるのに、崩れていきます。

 そもそも「ふたりでひとつ」なんて全然健全じゃないんですよ。足りないところを補い合ってるわけですらない。「多家良の才能を知っていてそれをより伸ばして彼を羽ばたかせようとする友仁」という、最初からめちゃくちゃにしんどい構図です。「ふたりでひとつ」って言ったら対等なように聴こえるけど全然そうじゃない。

 だってどちらも役者なんですよ。天才役者を目の前にして、自分も役者で、そこに嫉妬が生まれないなんてことがありますか。少なくとも、友仁のなかには嫉妬と呼べる感情がある。あまり表に見せないけど、ある。しかも多家良の役作りには友仁が絶対的に必要なので、多家良の演技のなかには確実に友仁がいる、そこに対する一種の優越感みたいなものも多分ある。でも自分じゃどう足掻いても届かない世界に多家良なら届くって誰よりもわかっている。わ〜〜〜!地獄だ!感情の地獄だ!これだけ複雑な感情を多家良に抱いているのに、多家良相手には見せない(気づかせない)ところが……友仁も役者なんだよなって思う……

 もしも友仁が役者じゃなくて裏方とか脚本とか演出とか、そういう部類だったらこんな地獄にはならなかった。役者じゃなければきっと、嫉妬もない。でも多家良が役者になろうと思ったきっかけ(というか最初に手を伸ばした相手)すら友仁という、えっ何重に苦を重ねたら気が済むの……?という具合になっています。

 そして多家良は芸能事務所に所属することになり、ドラマに出たり映画に出たりと活躍の場を広げていきます。そして「ふたりでひとつ」か崩れていく。この崩れ方が!まぁ〜しんどい!早く読んで!

 

 

 

・ぶつかり合えない

 演劇の世界にて繰り広げられる、巨大な感情の「馴れ合い」とでも言おうか。感情の「ぶつかり合い」ではない。ぶつかり合ってなんかない。友仁も多家良も、うまいこと本音を隠している。本音なんて隠してませんよあなたに見せるこれが本音ですよって顔して、本音を隠している。えぐい!さっき友仁は複雑な感情を抱いていても多家良にそれを見せない(気づかせない)って書いたけど、多家良だって気づいている部分はあって隠しているのかもしれない。そういう本音の隠し合いをしている。

 というのも、彼らはもう30を過ぎているわけで。もしこれが20代前半くらいだったら、お互いの気持ちをぶつけ合えたかもしれない。ぶつかり合えるような幼さを、彼らはもう持ち合わせていない。ぶつかり合ったところでわだかまりを残して決別するかもしれないけど、それはいつしか再会したときにある種の救いに化ける可能性もある*1。でも本音を隠して拗らせ続ける友仁と多家良、今のところマジでどこにも救いがないんだわ……

 ぶつかり合えないから、二人ともちゃんと「大人の顔」をするんですよね。変にわがまま言ったりしない。わがままを言っても通用しないってわかってるから。無垢と表現される多家良だって、ちょっとはわがまま言うけどそれが通じないってだんだん気付く。そして、わかりましたって顔をして「ふたりでひとつ」を崩していった結果、ウワー!最新話が!しんどい!!!早く読んで!!!

 

 

 

・相手にも自分にも暗示をかける

 「あいつには俺が必要」「俺にはあいつが必要」という暗示を自分にも相手にもかけている二人。そんな呪いみたいな関係性です。頼る/頼られるというロールプレイ。本当はお互いがいなくたって生きていけるのに、自分たちで自分たちを地獄に縛り付けている。

 なんとなく、中高生くらいの女の子みたいだなってイメージ。「あんたが付き合う男は私が判断するから絶対紹介して」みたいな友達、たまにいるじゃないですか。私は異性とは無縁のティーンだったのでそういうのはなかったけど、5個下の後輩の話を聞いていると実際にそういう台詞を言われたことがあるって聞いた。なんていうか、互いの絆を深め確かめ合うロールプレイの一種って感じ。それを30歳の成人男性のあいだで繰り広げる、このアンバランスな感じが「ダブル」の魅力のひとつだと思います。

 そして、友仁と多家良の目指すところって多分その地獄を抜けた先にある。女子中高生の関係性なら目指すところなんてないけど、友仁と多家良は役者という仕事をしている。地獄の先に行くには地獄を壊さないといけないんだけど、壊せるんですよ。だって自分たちで作ったんだから。DIYした地獄なので自分らで壊そうと思ったら壊せる。多家良が役者として売れ始めたあたりから、二人ともそれに気付きはじめる。でも気付いちゃったところでそれもまた新たな地獄なんだよな……

 あんまりネタバレしたくないから詳しいことは言えないんだけど、互いの暗示が崩れつつある最新話(17幕)で描かれる友仁と多家良の対比がすげ〜〜〜〜〜良くて……お前のほうが重症なのかよ…………というショックがすごい。早く読んで!!!!!!!!!!!

 

 

 私は演劇に携わったことがないし、俳優さんを売れはじめの頃からめちゃくちゃ推したりしたこともあまりないので、この漫画が描く演劇的な部分は理解しきれていないことが多いと思う。演劇に携わった人とでは見方も全然違うかもしれない。なので、友仁と多家良の関係性を重視してオススメポイントを書きました。でも最新話の「砂糖」のくだりはきっと演劇界隈では「ある」話なんだろうな〜って想像できた。そういうディテールも凝っている作品だなと思います。

 最新話では多家良のマネージャーである冷田さんの過去の話も出てきて、それもめちゃくちゃに重たくて良かったです。友仁と多家良がすごく魅力的なんだけど、周囲のキャラクターもみんな魅力的だから困る……困らないけど……

 

 

 2週間限定で全話無料公開しているので、大慌てではありますが「ダブル」をオススメしたいと思い書きました。みんな!読んで!!!!!

 

ダブル(1) (ヒーローズコミックス)

ダブル(1) (ヒーローズコミックス)

  • 作者:野田彩子
  • 発売日: 2019/06/14
  • メディア: コミック
 
ダブル (2) (ヒーローズコミックス)

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  • 作者:野田彩子
  • 発売日: 2020/03/14
  • メディア: コミック
 

 


*1:個人的には「ぶつかり合った結果わだかまりを残して決別し、再会することである種の救いを得た」話というのが加藤シゲアキさんの『ピンクとグレー』だと思ってます