金田一耕助を探偵界の自担と呼びたい ―「悪魔の手毬唄」感想+α―

 ミステリは好きだが、自分が生まれるずっとずっと前の作品についてはあまり触れてこなかった。というのも、そこまで面白いという印象がなかったからだ。高校生の頃、四大奇書とよばれる『ドグラ・マグラ』『黒死館殺人事件』『虚無への供物』『匣の中の失楽』を読んだことがあったがそこまでしっくりこなかった、ということもある。『虚無への供物』はドハマリしたけどそれ以外はそこまで……という感じだった。

 今思い返せば高校生の頃のことだから単純に「わかっていなかった」ということなのではないかと思うんだけど、「わからなかった」ということだけが頭に残っていた。それゆえに古いミステリは自分には向いていないと思い込んでいて、テレビで放送される金田一作品もほとんど見たことがなかった。今思うともったいなかったなぁ。

 

 

 加藤さんが金田一耕助になってくれたおかげで『犬神家の一族』を読んだ。ぼんやりとイメージしていたものとは全然違って(そもそもあの脚しか印象に残っていない)、ビジュアルイメージの派手さと論理的な推理の構成に夢中になって読んだ。

 金田一耕助というキャラクターについてのイメージも全然違っていた。私が好んで読むミステリの探偵は偏屈な神だったり偏屈な拝み屋だったり*1、偏屈な助教授だったり*2、童顔で偏屈な先輩だったり、ドラマで言えば「TRICK」シリーズの上田とか「リモート」の氷室さんとか、とにかく「偏屈」というイメージが強かった*3。なので金田一耕助もそういう感じなのかと思っていたらめちゃくちゃ柔和である。一人称が「ぼく」であり、時折助詞が脱落した喋り方をする(これは作品中では女性や子供に多い喋り口調な印象)。割とにこにこしているし、あんまり怒らないし、こいつは……めちゃめちゃ……かわいいのでは……!?と思わされる。加藤さんが演じる演じないは置いといて原作のイメージがもうかわいいのだ。おじさんだろうが不潔だろうがかわいいもんはかわいいんだよ!!!

 昨年の「犬神家の一族」の加藤金田一シゲアキさんは原作のイメージと比較するとどことなくスマートだった。知性が隠し切れない感じが出ていたし、加藤さん自身のスマートなイメージものっかっていたのかもしれない。「犬神家の一族」そのものもどろどろした部分(血縁関係がえらいことになっている)をあっさり風味に味付けし直した感があったのでこれはこれで合っていたのかなとも思う。

 しかし今年の加藤金田一シゲアキさんはキュートだった。キュートだった!!!冒頭で通りすがりの人が背負ったカゴにススキを入れる金田一さん。かわいい。にこやかに挨拶するのもかわいいし、そもそもススキ持って歩いてんのがかわいい。なんでススキ持ってんの?かわいすぎるのでは?これがただアイドル加藤シゲアキが演じててかわいい~みたいな気持ちだったら全然いい(?)んだけど違うのこれは金田一耕助がかわいいの。このシーンで今回の金田一さんはかわいいということがばっちりわかってしまった。圧倒的にかわいい。ほんとに……ずっきゅんでしたね……このシーンに私がどれだけやられたかみなさんにもっと伝えたい……金田一さんはススキを放り込んだんじゃなく私の心を射抜いたのだ……

 前回のスマートさは控えめになり、茶目っ気たっぷりになっていた。布団には楽しそうにどさっと倒れこみ、おそばを美味しそうに食べ、本を読んで楽しそうにごろごろし、お通夜に行こうと思ってるって言いながらなんの準備もなく、基本的ににこにこ、とにかくかわいい。とにかくかわいいんですよ。

 原作シリーズ作品をいくらか読んで、金田一耕助とは「他者のルールを理解しながらもそれを自分にはあてはめず、自分のルールに則って生きる」ような人物だなと感じている。ここでいうルールとは常識とかそういう言葉でもいい。軸はブレないが、そもそも軸の位置が他者とは違うような、そんなイメージ。ただ、他者への理解はあるのでうまくやっていけるし各地に知り合いも沢山いるしその多くが金田一さんに好意的だ。

 原作では敬語とタメ口の使い分けがすごく上手くて、するっと人の心に入ってくるというのがよくわかる。たとえば事情聴取相手の女の子が「パパと喧嘩して……」と言えば金田一さんは「そのときパパはどうしたの?」って訊き返しちゃうような感じ。他の人がやればちょっと馬鹿にしてるのかなと思われかねないが、金田一さんだと全然大丈夫で、むしろ親しみのある表現となる。今回のかわいい金田一さんはおそらくそういうところのある金田一さんだとわかってしまったのだ。もう無理。好き。手毬唄検索マシーンであるところのおばあちゃんに検索ワードを吹き込む場面など、かわいいの極みである。

 そして今回の金田一さんはかわいいだけではない。今さっき金田一耕助というひとを「他者のルールを理解しながらもそれを自分にはあてはめず、自分のルールに則って生きる」人物というように表現したけれど、これは「人の心に入り込む」ということを表すと同時に「人の心がない」ということにも当てはまる。他者のルールを理解しながらも自分のルールに則って行動するのだから、それは「人の心がない」のと同義にもなる。

 今回の金田一さんは、一連の事件の犯人であるリカと彼女を好いている磯川警部をふたりきりにする。その後の描写も合わせると、金田一さんはリカが自殺という選択肢をもっていることに気付いていただろう。それでもその選択を彼女と磯川警部に任せるあたり、人を死なせないことじゃなくて事件の謎を解き真実を知ることに重きが置かれているように描かれている。あれだけ人懐っこい人物でありながら、自身はひとそのものにはそんなに興味がなさそうなところが推せる。好きです。ちなみに「悪魔の降誕祭」という作品では金田一さんが犯人を名指しする場面で自殺する機会を与えてしまうのだけれど、ボンクラな私でさえも「そこでちょっと嘘をついていたら自殺させることなく捕まえることができたのでは……?」と思うし金田一さんの周囲の人物もあれはわざとなのでは……と疑う場面があってマジで最高です。ちなみに犯人が自殺するのを止めないスタイルを「金田一耕助流のヒューマニズム」って表現されているところもあって本当に最高。犯人を突き止めることに興味があっても捕まえることには興味がないのかも。時代性というのもあるのかもしれない。こんなに人懐っこいのに人の心がないんですよ。好き。うわ~~~~~!!!好き!!!!!!!!!!!このままじゃ好きになってしまうって怯えてたけどもう好きなのかもしれない困る…………好き…………もうこれは探偵界の自担と呼ぶしかないのではないかというところまできている……原作を読んでいても好きが溢れてしまうので…………えっ好きしかない…………念のため言うけどこの感情は加藤シゲアキさんに対するものとは違うんですよ、違うから困ってんだよ!!!加藤さんが演じてなかったら出会う機会もなかったけど、でも加藤さんに対する感情とは違うんだ…………困ったな…………好き…………今まで「好きな探偵」はいっぱいいたけど自担と呼びたい探偵は金田一さんだけだ…………

 

 

 

 金田一耕助のかわいさと人の心のなさをしっかり織り込んだ「悪魔の手毬唄」、とても良かったです(急に冷静さを取り戻した)。金田一さんが飄々としていてどこか「浮いた」存在であることによって他の登場人物の感情が際立っていた。リカの背負った悲哀であったり、リカを想う磯川さんの痛みであったり、歌名雄の怒りであったり、犯人にうっすら気が付いてしまった里子ちゃんの苦しみであったり、そういった部分が強調されたように見えた。

 前回よりもどろどろした部分が残っていて(原作の多々羅放菴はあんなにクズではなかった)、見立て殺人の死体もなかなかインパクトのあるビジュアルだったのも良かった。かわいい女の子たちは死体になってもかわいいんだな……唯一生き残った大空ゆかりこと千恵子ちゃんもかわいかった。

 

 また「悪魔の手毬唄」にまつわるあれこれも面白かった。おふろの王様とのコラボが決まったり、急に渋谷に手毬ツリーが現れたり。手毬ツリーは見に行って、真っ赤なクリスマスツリーに手毬とロウソク(型のランプ)が飾り付けられていてぱっと見オシャレで面白かったし、ツリーの根本に黒い羽がしきつめられていて凝ってるなぁ!と思った。ついでにローズ毬ーの湯ももらえた。お湯の色が赤くて笑ってしまった。

 

 

 こんなに最高な金田一さんを知ってしまったのでもう今までの私には戻れない。ひたすら金田一耕助シリーズを読み漁る日々です。面白いし金田一さんがかわいい~~~~~!!!!!ちなみに角川文庫の読み放題サービスで結構読めるので今が読みどきだよ!私のオススメは『悪魔の降誕祭』『夜歩く』『悪魔が来りて笛を吹く』あたりです。次やるならこれかなぁって思ってるのは『獄門島』『女王蜂』とかかな。

 来年も加藤金田一シゲアキさんに会えますように。

 

 

悪魔の手毬唄 (角川文庫)

悪魔の手毬唄 (角川文庫)

 

 

*1:職業としては神が探偵だが役割としては拝み屋が探偵である

*2:建築学科の助教授もいれば犯罪社会学助教授もいる

*3:勿論偏屈でない探偵も読んでいたのだが、少年のキャラクターが多かった気がする