私の好きな伊坂幸太郎作品

 好きな作家はまぁまぁ沢山いるが、その中でも特別な作家のひとりが伊坂幸太郎さんだ。4月に念願の仙台初上陸を果たしたということもあって、伊坂さんの好きな作品もまとめたいなと思いました。

 

 

『重力ピエロ』――家族って何で繋がってるの?

 ポルノグラフィティの新藤さんがなんらかのタイミング(著名人の好きな本とかそういうくくりだった気がする)で帯を書いたこともあるし、新藤さんのラジオに伊坂さんが来たこともあり(多分この本の宣伝だったと思う)、なかなか思い入れがある。文庫は読みすぎてボロボロになったので買い直した。本は消耗品であると思い知った作品。今までに多分3冊くらい買い替えてる。

 単行本に「小説、まだまだいけるじゃん!」という帯がついていたことで当時話題になっていたし、書き出しの「春が二階から落ちてきた。」の一文も秀逸すぎて話題になっていた。私が高校生のときはちょっと本を読む人はみんな伊坂さんを読んでいたし、みんな『重力ピエロ』を読んでいて、なのでこの小説のことを考えると懐かしいにおいがしてくる気がする。

 いまさら私があらすじを紹介してもアレだなと思うので細かな部分は省略するけれど、和泉と春という兄弟の話。伊坂さんはよく兄弟を書くけれど、なかでも『重力ピエロ』の兄弟は魅力的で、読んだらきっと二人のことを好きになってしまうと思う。

 

 伊坂さんの作品ってスタイリッシュと人情が共存するところが特徴だと思っている。法に照らし合わせれば正しくない行為が、人情の面から見ると真っ当に見えるというか。でも「人情」って聞くと暑苦しく思えてしまう部分もあるけれど伊坂さんの作品はそうではない。垣根とか壁とかをあっさり飛び越えてしまうような、そういうスタイリッシュさがある。気づいたらもう自分の陣地に踏み込まれているような、危うさとかっこよさが共存している。そこに見事な伏線回収の技術と言葉のセンスが合わさって最高に面白い作品になっている。

 

重力ピエロ (新潮文庫)

重力ピエロ (新潮文庫)

 

 

 

 

アヒルと鴨のコインロッカー』――神様、この物語だけは、見ないで欲しい。

 私が伊坂さんと出会った作品。当時、実は『重力ピエロ』はまだ読んでおらず、というのも話題になりまくっていたのでちょっと避けて通った、という背景がある。が、この作品を読んでめちゃくちゃ面白かったのですぐ『重力ピエロ』にも手を出した。

 当時の私はミステリに狂っており、この作品は東京創元社のミステリフロンティアの第一回配本だった。ミステリに狂っていた私が読まないわけがない。あとポルノの新藤さんがめっちゃアヒル口で、アヒルという言葉に惹かれたということもある。

 そんな軽々しい気持ちで手を出して、押し寄せてくるエモの波で死にそうになりながら読み終わった。それから何度も読み返しているが、そのたびにエモの波にのまれる。というか何度も読み返すうちに話の筋を覚えてしまうのでこの後何が起こるかがわかってしまい、めちゃくちゃにしんどい気持ちで読むことになる。でも最後の、寂しさと切なさと清々しさが同時に訪れる感じがたまらない。私はこの物語において途中参加すらしていない一読者でしかないから、彼らが辿る道について何も言えない。そんなもどかしさもあって、読者だからこそこの物語を知ることができたのに、なんとも言えない気持ちになる。が、それがいい。そういう気持ちになりたくて読むのだ。

 映画化もされていて、この小説をどう映画化するんだ?という感じだけどそれを上手いこと映像で表現していてすごい。ちなみに中村義洋監督は「フィッシュストーリー」「ポテチ」「ゴールデンスランバー」といった伊坂作品原作の映画の監督でもある。

 「神様、この物語だけは、見ないで欲しい。」は映画のポスターに書いてあったコピーで、本当に本当に秀逸すぎてこの物語の感想を一言で述べるとしたらこれ以外にない。この先もずっと見ないでいてほしい。頼むよ神様。

 

アヒルと鴨のコインロッカー (創元推理文庫)

アヒルと鴨のコインロッカー (創元推理文庫)

 

 

 

 

『魔王』『モダンタイムス』――「大きなもの」との戦い

 伊坂作品にはたまに「絶妙な超能力」が出てくる。大きな何かを成し遂げられる力ではない。ごくごく小さな力だ。それを駆使して戦おうとする人たちが出てくる。この2作もそういった物語だ。

 『魔王』は絶妙な超能力に目覚めた兄とその弟の話である「魔王」と弟も絶妙な超能力に目覚めた話の「呼吸」の2編が収録されている。書かれている話も、語り口調も、さほど明るくはなく、どちらかというと重たい。結末も明るいとはいえないが、どうしようもなく胸に迫るものがある。

 『モダンタイムス』は『魔王』から数十年後の話。書き出しの「実家に忘れてきました。何を?勇気を。」が最高すぎて、この一文を読んだ後しばらく先に進めなかった。伊坂さんの言葉のセンス、ほんと好き。

 どちらの作品も、主人公たちが「大きなもの」と戦うことになる。組織だとか、そういうものですらない。ただ漠然と「大きなもの」だ。仕組みとか、枠組みといってもいい。そういう「大きなもの」についての話だ。だからといって組織的に戦うわけではなくて、「大きなもの」VS一個人、という感じ。この「大きなもの」に対して、ひとりの人間としてどう向き合うか、という視点でもあるように思える。

 すっきりした結末ではないが、この割り切れない感じが「大きなもの」を前にした人間という感じがして私は好き。「大きなもの」を相手にどう戦うのか?どうしたら勝てるのか?そもそも「大きなものに対する勝利」とはなんなのか?ていうか戦えるのか?そんな問いが浮かんでくる。

 『ゴールデンスランバー』『火星に住むつもりかい?』なども、監視社会だったり「大きなもの」と戦ったりと、近い世界観で描かれている作品。

 

魔王 (講談社文庫)

魔王 (講談社文庫)

 
モダンタイムス(上) (講談社文庫)
 
モダンタイムス(下) (講談社文庫)

モダンタイムス(下) (講談社文庫)

 

 

 

 

『砂漠』――砂漠にだって雪は降る

 多分、伊坂作品で一番好き。きっと伊坂作品のなかでも愛好者が多い作品なのだろうなと、その出版形態(単行本:実業之日本社→ノベルス版:実業之日本社Jノベル・コレクション→文庫版:新潮文庫→表紙がイラストの文庫版:実業之日本社文庫)の多さから見てもわかる。私も単行本と新潮文庫を所持している。

 決して派手な話ではないが、地味なことの積み重ねが面白さになる。麻雀の描写が結構出てくるので、麻雀がわかるとより面白いのではないかと思う。私は麻雀はわからないけど面白いのでわからなくても大丈夫。

 主人公たちは大学生で、ぐだぐだした日常を送っている。ぐだぐだしたなかにもささやかな事件が起きたり起きなかったりする。途中で彼らの「ぐだぐだ」に亀裂が入る場面が訪れ、一体どうなってしまうのだろうと震える。そして「ネタばらし」ともいえる清々しいラスト。あまりの清々しさに、社会人になって久しく経った今読んでも青くさく思えてしまうのではないかと危惧してなかなか読み返せなかった。が、今読んでも面白い。私がまともな社会人になれていないということもあるが、それをおいといたって面白いのだ。

 個人的には大学生、またはかつて大学生だった人にオススメの一冊。

 

砂漠 (新潮文庫)

砂漠 (新潮文庫)

 

 

 

 

夜の国のクーパー』――「帰る」ための物語

 伊坂さんの作品のなかでも異色というか、とても寓話的な話なので賛否が分かれる作品だが、私は超好き。この作品が発売された頃は就活で忙しくなって本を読まなくなっていた。そんななかこの作品を読んで「小説ヤベェ!」と思ったのを覚えている。とても鮮明な体験だった。

 何がそんなにすごいのかというと、この本の帯だ。ハードカバーの帯(裏拍子側)には「帰るか。」「帰ろう。」という二言が掲載されている。読む前は何かと思ったが、読んでわかった。読み終わって、本を閉じ、この帯を再び目にしたとき、「凄まじいネタバレじゃないか!」と思ったのが衝撃的すぎて忘れられない。ネタバレというか、この長い長い『夜の国のクーパー』を要約するとこの二言に集約されてしまうのだ。このたった二言のためにこの長い作品があるといっても過言ではないと私は思っている。この二言を拡張し拡張しこんなにも長い物語になることが、こんなにも長い物語を集約するとたった二言になるということが、私には衝撃だったし、そんなの絶対面白いじゃんと思った。物語そのものも面白いが、それ以上にこの仕組みが面白い。

 

夜の国のクーパー (創元推理文庫)
 

 

 

 

『ガソリン生活』――車は語る、楽しく切なく

 語り手は「車」。主人公となる緑のデミオで、緑デミと呼ばれている。車が喋るという設定は突飛ではあるが、絵本などではよくあることだし、さほど驚くことではない(この本を読んじゃうとそういうふうにしか思えなくなる)。絵本によくあるような設定を、大人が読む一般書でまっとうにやり切っている時点でもうすごい。そして面白いから更にすごい。もっとSF寄りとか不思議な感じに振り切れてもいいのに、あくまでも日常に寄りそう書き方がされているところが好き。

 緑デミの主である望月家の人たちはみんなどこか破天荒で、特に頭のいい末っ子の亨がかわいい。こんな10歳いないだろ!と思うけど小説だからいいんだよ。そもそも車の視点で語られているわけだし。

 伏線が回収される気持ちよさもあり、キャラクターの面白さもあり、伊坂ビギナーにもオススメしたいなと思う作品。

 

ガソリン生活 (朝日文庫)

ガソリン生活 (朝日文庫)

 

 

 

 

『シーソーモンスター』――海族VS山族

 現時点での最新作。複数の作家が同じ世界観を共有し、それぞれの時代を描く「螺旋プロジェクト」のうちの一作となっている。「螺旋プロジェクト」の他の作品はまだ読んでいないけれど、朝井リョウさんなども書いているので読んでみようと思っている。

 内容は「シーソーモンスター」「スピンモンスター」の2編を収録。どちらも大きな何かとの戦いを描いているものの、「シーソーモンスター」は嫁姑という比較的身近な視点から描き(ただの嫁姑バトルではないのがやっぱ伊坂さんだな!という感じで最高)、「スピンモンスター」は『ゴールデンスランバー』を思い出させるような逃走劇=マクロな視点での戦いを描いている。

 

シーソーモンスター (単行本)

シーソーモンスター (単行本)

 

 

 

 

 

 エッセイも面白い。今のところ『3652』と『仙台ぐらし』の2冊が出版されている。やたらキャラの濃いお父さんの話と、たまに出てくる奥様の話が素敵。伊坂さんの人柄の良さがにじみ出まくっていて、この人がこういう小説を書くことに何の違和感もないどころか納得がすごい。

 エッセイは別で感想を書いています。

足元を風船だらけにする 『3652』伊坂幸太郎 - わすれてしまうひと図書館

 

 

 

 ちなみに今後は書下ろし作品が出版予定らしい。楽しみ!

 それと『アイネクライネナハトムジーク』の映画は2019年9月公開!これも楽しみ!

gaga.ne.jp

 

 

 スタイリッシュでかっこよくて、でも「人間のいいところ」を信じられるような小説たち。ほかにも紹介したい作品は沢山あったけど多すぎてもな……と思って泣く泣く割愛しました。『チルドレン』『フィッシュストーリー』『ゴールデンスランバー』『火星に住むつもりかい?』『フーガはユーガ』とかも私は好き!