進化するポルノグラフィティ ―新曲「カメレオン・レンズ」―

 

 ポルノグラフィティ新曲「カメレオン・レンズ」。
 この曲が評価される世界とされない世界があって、どちらに行くか自分で選べるんだとしたら、私は食い気味に前者と答える。そういう曲です。コアな人だけが知ってる曲なんかにしたくないので、この曲がどれだけいいかを語りたい。
 なお、忙しい方はこんな記事読まなくていいのでDL販売でもCDでも手に取ってください。できればCD初回盤を手に取ってほしい。最高なPVもついてくるんで。DLは先行配信中、CDは3/21発売です。

 

カメレオン・レンズ(初回生産限定盤)(DVD付)

カメレオン・レンズ(初回生産限定盤)(DVD付)

 

 

 

・歌い出しの「あ」で元が取れる

ありのままの真実など 誰も見ていやしない
色を変えたり歪めたり カメレオン・レンズみたいに

 同じものを見ていたとしても、目に映るものが同じだとは限らない。そこには間違いなく「主観」というバイアスがかかる。満月にうさぎを見る人もいれば蟹を見る人もいるし、気分が悪くなる人もいれば嬉しく思う人もいるだろう。でもそこにある満月自体が何かを語っているわけではない。互いに見知らぬ他人であってもそうだし、互いをよく知る関係だったとしてもそれは変わらない。

 音のつくりや歌い方も、いわゆる「ポルノらしさ」とは違っている。ポルノといえば言葉数が多くて速い曲、あるいは情熱的な風が吹くようなラテンといったイメージが強いのかもしれないが、「カメレオン・レンズ」はそのどちらでもない。
 静かに忍び寄るような不穏なイントロ、冬の夜の冷たい空気に似た岡野さんの歌い出し。「メリッサ」や「サウダージ」のような勢いのある歌い出しとは全く違うし、切なさや寂しさといった言葉で表せる感情とも違う。強いて言えば諦念?でももっとカラッとしている。そんな岡野さんの声が歌うのだ、「ありのままの真実など 誰も見ていやしない」と。この「あ」がもうやばい。「あ」って。跳ねるでもなく、置くでもなく、闇夜に溶けていくような「あ」だ。「あ」自体は儚く脆いわけではなくて、存在感はちゃんとあるのに、振り返ったらもう溶けて消えてしまっている。もうこの「あ」だけでDL先行配信250円の元は取れるどころかおつりがくる。ちゃんと払わせてほしい。
 歌い出しの「あ」だけでなく、岡野さんの歌い方が全体的にやばい。青筋を立てるような力強い歌い方ではなく、だからといってか細いわけでもない。優しいという言葉で表現するのも違う。むしろ冷たい。冷たいけれど、無機物的な冷たさではなく、人の体温を感じる声。寒い日の夜にポケットに入れていない指先みたいな。歌詞の物語に寄り添いすぎずに、しかし確かに歌詞の物語を伝えている。あまりにもすごすぎて理解が追いつかない。あと1番の「Love or not」の吐息まじりの「ラ」が国宝級。


・歌詞が凄まじい

 金曜ナイトドラマホリデイラブ」の主題歌として書き下ろされた「カメレオン・レンズ」。ドラマの内容としては、幸せな家庭だと信じていたのに夫が単身赴任先で不倫して……という話。つまり、主題歌である「カメレオン・レンズ」もハッピーなラブソングではない。
 だからといってTHE不倫みたいな歌詞でもないのが作詞・新藤晴一のおそろしいところ。不倫してるとかしてないとかではなく、その奥にあるもっと根本的な部分を歌詞にしている。
 さっき挙げた歌い出しの部分でも既にやばいんだけれど、2番サビが個人的には一番やばい。

不吉な声でカラスが鳴いた あれは僕が君の空に放した
青い鳥なのかもしれないね 美しい羽だった

  多少現実味のある言葉でいうと「良かれと思って差し伸べた手が君を傷つけた」みたいなことだと思うんだけど、それをあえて抽象的に表現している。でも意味がわからないわけではない。どういうことなのか、なんとなくわかる。抽象的にすることによって表現として美しい言葉を選択できるようになるし、受け取った人の解釈の余地も広がり、自分のなかで自分なりに変換し、同じ経験があると重ねることもできる。「僕が君の空に放した青い鳥」は、ひとによって「良かれと思って差し伸べた手」とか「落ち込む君にかけた言葉」だとか、さまざまに姿を変えることができる。でもそれはそれとして、歌詞の言葉が圧倒的に美しいのもまた事実だ。言葉の美しさと共感性が両立している。なんなの、新藤晴一。こわい。
 また、「林檎」「バラ」「ワイン」といった「赤」が強調されているのも特徴的だ。新藤さんがつかう赤は、セクシーさとか不実さとか、なんとなく背徳的なイメージにつながることが多い。「LiAR」の「赤い血」、「アポロ」の「赤い赤い口紅」、「ジョバイロ」の「胸に挿した一輪の薔薇が赤い蜥蜴に変わる夜」などなど。この曲の「赤」も例にもれずそういったイメージ。そのうえ楽曲が静かだから「赤」という鮮烈な色が映える。そんな中で「色を変えたり歪めたり」と最初に歌っておいて「でたらめな配色で作ったステンドグラス」「青い鳥」「カラス」なんて歌詞を出してくる。やばい。すごすぎてこわい。

 


・PVが美しい

 


ポルノグラフィティ 『カメレオン・レンズ』(Short Ver.)

 

 まさかデビュー19年目にこんな、顔の良さで殴りかかってくるようなPVが出るなんて思ってなかった。この世界観を、役者を使わずに作り出すことができるのは二人の顔が良いから。曲の良し悪しに顔の良さは関係ないけど、関係ないからこそ武器になる。デビュー直後ならまだしもこの人たち19年目なんですよ。それでもなお顔の良さで殴りかかれるってすごい。
 「ありのままの真実など 誰も見ていやしない」という歌詞を鏡の前で歌う岡野さんを映す。この時点で優勝が決まった。特に伏し目で歌う物憂げな岡野さんがマジでやばい。新藤さんはこっちを見つめたときの目が何かを物語りすぎててやばい。
 歌詞同様、赤い小物が目立つ色合い。途中で出てくる英語詞も赤。色気と危うい雰囲気がやばい。ごめんもうやばいしか言えない。
 ショートバージョンでも既にやばいが、真にやばいのは2番からである。3/2限定でFC会員向けに先行公開されてるけど、なんと初回盤CDを買えばDVDがついてきます。いつでも見られます。
 
 ちなみに、同じくモノクロメインで赤が目立つような色合いで撮られたちょっとセクシーめのPVに「ヒトリノ夜」がある。言葉で説明したら大体同じなのに、ふたつの作品の違いがすごい。かたや若いから撮れるPV、かたや大人の色気がすごいPV。どっちもやばいから見て。

 


ポルノグラフィティ 『ヒトリノ夜(short ver.)』


・進化するポルノグラフィティ

 アポロ、サウダージ、アゲハ蝶、メリッサあたりを「ポルノグラフィティ」だと思っている人にこそ聴いてほしい。勿論それらの楽曲もポルノらしさを構成する要素ではあるけれど、それだけではないということをこの曲が教えてくれる。
 ファンのあいだでは、ポルノにこういった面があることは知られていた。最近の楽曲だとシングル「LiAR/真っ白い灰になるまで、燃やし尽くせ」のカップリング曲「Part time love affair」、アルバム『BUTTERFLY EFFECT』収録の「MICROWAVE」などがある。でもそれをシングルでやるなんて。ポルノのこういう一面も、早く世間に知れてしまってほしい。
 それに岡野さんの歌い方も、開放感のある開けた声や滑舌がよく勢いのある声だけではない、また別の歌い方になっている。新藤さんの歌詞も更にすごいことになってるし、どれだけ進化する気なの、ポルノグラフィティ

 「キング&クイーン」がリリースされたとき、ポルノグラフィティは今もまだ挑戦者であり続けるのだという話をした(挑戦者であるために ―ポルノグラフィティのみる夢― - 来世はペンギンになりたい)。デビュー19年目となる今年も、ポルノはまだまだ挑戦者であり続ける。この「カメレオン・レンズ」は、そんな彼らの挑戦のひとつだといえよう。

 

 とにかく聴いてほしい。それだけです。