今年読んで面白かった本2018

 今年は沢山読みました。せっかくなので、印象に残っている面白かった本を挙げておきます。エントリー作品は「私が今年読んだ本」なので今年発売じゃない本も沢山ありますというかそれがほとんどです。特に順位とかはないので順不同です。

 

 

 

 

 

 

『東京タワー』江國香織(新潮社)

 こういうタイプの小説を、今まで面白いと思ってこなかった。

 江國さんの作品は、『間宮兄弟』が映画化される際に読んだのが最初だった。当時の私はひたすらミステリばかり読んでいたし物語としての起伏の激しさを求めていたので、ゆるやかに流れていく日常であったり、そこに生きる人々の心の機微を描いた作品はあまりピンとこなかった。今年、本を読もうと決めて「私に薦めたい本を教えて」と言ったら江國さんの作品を挙げてくれた友人がいて、じゃあ読んでみようと思って読んでみたらそこからずぶずぶとハマってしまった。なかでも一番衝撃を受けたのが『東京タワー』。

 何を恋愛感情と呼ぶのかわからないまま生きてきて、今もよくわかっていないけれど、「抗いようもないほどその人を変えてしまうもの」なのかもしれないなとこの本を読んで思った。透から見る詩史さんはとても魅力的で、彼が抗いようもなく詩史さんに惹かれてしまうのがなんとなくわかる。たとえその先に、今まであったはずの未来がなくても、それを手離してもいいとさえ思えてしまうことが、わかる。共感できるという意味ではなく、透がどうしようもなくそう思っていることがわかってしまう。ものすごく苦しくて、だけど美しい。

 作中の人々が相手に抱く感情は、私の人生には一度も訪れなかったし私が私のままこの先も生きていくとしたら絶対出会うことのない感情なのだろう。そう思ったら、そういうタイプの本を読めることってすごく嬉しいことなんじゃないかと思った。自分が出会わないことも、本を通して覗き見できるって、すごい。

 あと私も詩史さんみたいな年上の女の人に出会ってしまう男子高校生~大学生になってみたかったみたいな気持ちもある。今生では女に生まれてしまったしもうアラサーだし来世はペンギンなので叶わぬ夢だけど。

 『神様のボート』も恋が人を静かに確かに狂わす様子を描いていて好きだなと思ったし、家族の話『抱擁、あるいはライスには塩を』などもよかった。

 

東京タワー (新潮文庫)

東京タワー (新潮文庫)

 

 

 

 

 

『火星に住むつもりかい?』伊坂幸太郎(光文社)

 一時期は伊坂さんの作品も雰囲気が変わってきたのかな~と思ってあまり読まずにいたのだけれど、いやこれ面白すぎるでしょ。

 伊坂さんの作品の特徴として、「法律的にダメなことをしていたとしても筋が通っているので応援したくなる人VS法律的にダメだろうとダメでなかろうと筋の読めない存在(=悪)」みたいな感じがあると思っている。ギャングや泥棒や殺し屋もよく出てくるし、ルパン三世がかっこいいのと同じというか。『重力ピエロ』『アヒルと鴨のコインロッカー』『ゴールデンスランバー』あたりも、泥棒とかギャングは出てこないけど筋の通らない悪みたいなものは出てくる。伊坂ワールドにおいて筋が通っているかいないかはめちゃくちゃ重要なんだと思う。私は伊坂さんの作品に通ずる道徳みたいなものを「スタイリッシュな人情」って呼んでいるんだけど、この「筋が通ってる」感が「人情」とか「人間くささ」みたいなものに繋がってくるんだと思う。あとはなんか小粋な感じとかね。

 『火星に住むつもりかい?』は、悪と戦う物語であり、それ以上に偽善と戦う物語でもある。というか結果的に悪と戦っているわけであって、彼が本当に戦っているのは偽善なのかもしれない。そういう変化球を投げられちゃうともうだめ。面白い以外のなんでもない。物語がただでさえ面白いのに、伊坂さんらしい気の利いた言い回しが随所にみられてやばい。特に監視カメラのくだりが好き。反復からの変化という真っ当な球も、物語自体がひねくれているという変化球も、もう全部ストライクゾーンにどしどし来る。

 終盤になってくると、この残りページ数でどうオチをつけるのかというところでもワクワクする。それまでの物語が一点に集まってくる感じがものすごく良かった。新刊も買ったので早く読みたい。

 

火星に住むつもりかい? (光文社文庫)

火星に住むつもりかい? (光文社文庫)

 

 

 

 

『ゲームの王国』小川哲(早川書房)

 今年読んだなかでナンバーワンを決めろって言われたらこれかなぁ。

 うまい言い方が見つからないので語弊を恐れず言うと(うそ恐れてるからできれば意図汲み取って)、本を読める人にウケる本、という印象。本を読みなれている人じゃないと読みづらい部分とか読み取りづらい部分はあると思う。だから万人受けするかといったらそうではないのだけれど、個人的にはめちゃくちゃ面白かった。

 上下巻構成で、上巻はポル・ポト政権前後のカンボジアを描いている。なかなか残虐なシーンが続くし、「この人には絶対いい目にあってほしい」と思う人ほど……みたいなこともあって読んでいてしんどい部分もある。で、下巻になると50年くらい時間が進んでいて、上巻はなんだったの?という気持ちにもなるけれど上巻を読まないとダメだったことがクライマックスで判明する。ネタバレしたくないから言えないんだけど、上巻の読書体験が必要なんですよ……

 そういう意味でも最高に面白くて、さらにいうとこの長い小説を要約したら一文になってしまうくらいにまとまっている、というのもまたいい。こんなに長く読んできて、これまでの文章はこのことを言いたいがために書かれていたんだとわかったときの気持ちよさがやばい。この手の気持ちよさで一番やばいのは伊坂さんの『夜の国のクーパー』なんだけど(これは単行本発売時の帯が要約を通り越してネタバレとはわからないネタバレで最高だった)、それに近いくらいに気持ちよかった。

 

ゲームの王国 上

ゲームの王国 上

 
ゲームの王国 下

ゲームの王国 下

 

 

 

『眠れない夜は体を脱いで』彩瀬まる(徳間書店)

 彩瀬まるさんの本、良すぎて1年のうちに単著の小説作品は全部読み切ってしまった。どれもいいので一冊を挙げるのが難しいんだけど、それでもひとつ選ぶならこれかなぁ。

 身体についてのさまざまな悩みをかかえる人々の話で、それぞれが「手の写真を見せてください」というスレッドを介して繋がっている。彩瀬まるさんの連作短編集は何かひとつのキーアイテムがあって繋がっているというパターンが多くて、特にこの「手の写真」のスレッドは時間軸としてもそれぞれの話が近い感じがするところが、同じ夜にそれぞれ悩む人たちという構図がみえていい感じだなと思った。私も身体に関する生きづらさを抱えているから、同じ夜にそれぞれ悩みを抱えている人がいるということが余計に刺さったのかもしれない。「私だけが悩んでいるわけじゃない、でも私だって悩んでいる」という当たり前のことを、すっと認めることができたような気持ちになった。

 彩瀬まるさんの作品は、隠していたり気付かないふりをしていたりする「傷」を、これはあなたが負った傷だよと見せてくるような感じがする。作品のなかに描かれる誰かの傷を通して、自分の傷が見えてくるような感じ。そうやって傷を認識することは、自分を大切にするはじめの一歩だと思う。作中の人たちは、割とみんな自分の中で答えを出して立ち直る。立ち直れなくても、立ち直る手前までは自力で辿りつく。私のなかにもそういう力があるのではないかと、そんな気がしてくる。

 他には「家族」について書かれていることも多くて、長編『あのひとは蜘蛛を潰せない』では母と娘、『不在』では父と娘の関係について描かれている。

 

眠れない夜は体を脱いで (文芸書)

眠れない夜は体を脱いで (文芸書)

 

 

 

 

「階段島」シリーズ 河野裕(新潮社)

 今年読んだのは一巻以外の作品だけど、一冊だけ読んでも意味がないやつなので、シリーズで挙げる。気になったら最初から読んでね。『いなくなれ、群青』にはじまるシリーズで、最初はミステリっぽさもあったけれどむしろファンタジーという印象。だんだんと群像劇の色合いが濃くなってくる。

 文章は決して難しくないしレーベル的にもラノベ(=若者たちを中心に読まれる本)に分類されるであろう小説だが、高校時代も遠くなった私が読んでも面白いと感じるし、私がラノベのメインターゲット層だった時代に好んで読んでいた小説と近いものを感じる。よく言えば「純粋すぎる心」、ちょっと斜めに言えば「青くさい哲学」というようなもの。私はまだそういうものを抱えて生きているので、痛いくらいにわかる。わかってしまう。彼らの言葉が何を意図しているのか、わかってしまう。

 物語そのものも面白いし、主人公・七草と真辺の関係性がすごくいい。恋愛と呼ぶにはあまりにも純粋すぎるような、そんな関係性。相手を大切に思うあまりに、誠実であろうとするあまりに、二人の気持ちは肥大する。そんなにも大きな気持ちをなんと呼ぶのか、私は知らない。知らないけれど、似た気持ちを知っている。私が名づけようと苦労している気持ちと似ているのだ。

 めんどくさい自覚がある人に是非おすすめしたいシリーズ。もうすぐ完結するっぽいので楽しみです。

 

いなくなれ、群青 (新潮文庫nex)

いなくなれ、群青 (新潮文庫nex)

 

 

 

 

すべてがFになる森博嗣(講談社)

 中学生の時に読んで以来の再読。うっすらと記憶には残っていたけれど、明らかに最初に読んだ当時より話が分かるようになっていて己の成長を感じた。そりゃあ中学生のときと今が全く同じだったらちょっと困るよね。

 IT系の職に就いたことによって、作中で交わされる専門的な話がなんとなくわかるようになったことにびっくりした。この仕事やっててよかったことなんて特にないと思っていたけど森博嗣作品が更に楽しめるようになったなんて最高。とはいえ全然難しい話ではなくて、単純に用語がわかるようになった、くらいの意味合い。調べながら読んでも意味がわからなかったものがすっと入ってくるようになったことに驚いた。

 それに、今読んでもフロッピーディスク以外に明らかに古いなと感じる部分がないのもすごい。犀川先生や萌絵ちゃんのキャラ造形も全然古くない。物語のギミックも、小道具も、そもそも物語自体も、新鮮なものばかりだ。これ96年の作品だから発表から20年以上経っているわけで……そんなことは一切感じさせないのがすごい。改めて森博嗣先生のすごさを思い知った。

 あと森先生のエッセイ『つぼやきのテリーヌ』も読んだのだけれど、頭良すぎてめんどくさい感じが面白いのとたまに出てくる奥様との話がめちゃくちゃかわいいのとでとても楽しく読んだ。

 

すべてがFになる (講談社文庫)

すべてがFになる (講談社文庫)

 

 

 

 

『図書室で暮らしたい』辻村深月(講談社)

 辻村さんの2冊目のエッセイ。1冊目の『ネオカル日和』もすごく面白かったけれど、2冊目のほうがより胸に響く部分が多かった。エッセイを読んだらその作家がどういった人物なのかを(フィクション作品だけを読む以上に)知ってしまうことになるわけで、もし好きじゃない部分があったら作品まで嫌いになってしまわないかなと不安だったのだけれど、よく考えたらそうとも限らないなと思ったので今年は好きな作家のエッセイも読んでいる。

 小説についての話、息子さんについての話、好きなものについての話、どれもすごく素敵だった。まるで友達の話を聞いているみたいに近く感じられた。今年読んだいくつかのエッセイのなかでも、一番親しみやすかった。勿論友達ではないから書かれているものを読むしかできないのだけれど、辻村さんの話を受けて「私もこういうことがあってね、」と話したくなってしまうような、そんなエッセイだった。

 また、エッセイのなかに初めて好きな作家さんのサイン会に行ったときの話が書いてあって、その様子を読んでいたら私が初めてサイン会に参加したときのことを思い出した。私が初めてサインをもらったのは辻村さんで、そのときの記憶が一気に溢れてきて涙が出てきてしまった。あまりにも思いが溢れすぎてファンレターを書いて送ったのだけれど、とても素敵なポストカードに直筆で書かれたお返事が返ってきて驚くとともにまた泣きそうになってしまった。きっとこの気持ちをわかる人だからこそ、お返事を書いてくださるんだろうなぁ。

 

図書室で暮らしたい

図書室で暮らしたい

 

 

 

 

プラネタリウムの外側』早瀬耕(早川書房)

 『未必のマクベス』が22年ぶりの新作として話題になった早瀬耕さんの作品。恋愛+SFという感じで、なんていうかロマンチックSFというか。有機素子コンピュータのなかに作られたまるで人間のように会話するプログラムと、そのまわりで巻き起こる恋愛とが、複雑に絡み合っている。有機素子コンピュータが何かわからなくても全然大丈夫です。私もちゃんとはわからない。チューリング・テストという言葉は知らなかったら調べつつ読んだほうがいいかもしれない。私もちゃんとはわかっていないけど。

 SFのギミックがさまざまに用いられながらも、恋愛小説としてもすごくいい。人と人との関係性がとても細やかに描かれている。恋愛というよりも、「誰かを強く思う気持ち」について書かれているといったほうが正しいかもしれない。

 一体どこからがコンピュータのなかでの出来事なのか、どこからが現実の出来事なのか、だんだんとわからなくなってくる。この感覚が絶妙だし、このコンピュータのなかに作られた人格であるナチュラルがね……怖いんだよね……人智を超えたところに届いてしまった感があって……でもナチュラルはめちゃくちゃ良いやつなので情がわいてしまう……そんな複雑な気持ちも味わえる。

 物語も文章の構成もめちゃくちゃ上手いので、とても上質な読書体験ができる一冊だと思う。

 

プラネタリウムの外側 (ハヤカワ文庫JA)

プラネタリウムの外側 (ハヤカワ文庫JA)

 

 

 

 

 

 

 あと、読んだ直後に「うわこれやべーな」って気持ちが高まってしまったものに関しては別ブログにて感想を書いています。今年読んで面白かった本を思い出そうとしても、どうしても最近のものが多くなってしまうので、そうじゃないものはこちらのブログをご参照ください。

penguinlibrary.hatenablog.com

 

 

 

 

 

 2月に読んだ分からカウントし始めて、年間100冊読めたらすごいな~とか思ってたら半年ほどで達成してしまい、その後ドラマにハマって実質10日間しかなかった7月~9月はほとんど読めなかったものの、またぼちぼち読んで(でも12月はスマブラで忙しい)おそらく年間200冊にちょっと届かない程度になりそうな予感(現時点で178冊)。本って自分のペースで物語を摂取できるから、私としてはめちゃくちゃ楽だなと思います。来年は年間200冊くらい読めたらいいな。

 今年はいろんなジャンルの本を読むようになって、特に恋愛小説とエッセイを読むようになったのは私のなかでは大きな変化だと感じている。来年も引き続きたくさん読んでいきたい。

 

 あと、本を読むのが好きだけどどんな話かすぐ忘れちゃう人(=私)のような人がいたら、軽くでもいいので感想を書いておくといいかもしれないです。基本的に忘れちゃうんだけど、感想を書いてあとから見返すことによって「こんな話だった」とか「ここが面白かった」を思い出しやすくなる気がします。是非。

 

 まだ今年も残っているので、その間にやばい本を読んでしまった場合は追記します。