19年ぶんの時のうえに ―ポルノグラフィティ「ブレス」感想―

 ポルノグラフィティ新曲、「ブレス」がリリースされました。今回もとんでもないシングルなので紹介せざるを得ません。圧倒的主観で紹介します。
 
 要約:ポルノグラフィティ新曲「ブレス」(特に初回限定盤)は表題曲もカップリングも特典も全部やばいから買って

 

ブレス(初回生産限定盤)(DVD付)

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イントロ

 夏。イントロから夏を感じる。最初のキュルキュルしたギターの音が夏の日射しに似ていて、そのあとに入ってくるストリングスの音は爽やかに吹き抜ける風に似ている。音(聴覚)が目に見えるものに似ているって不思議だけれど、そうとしか言いようがない。とりあえずちょっと聴いてみてほしい。
 ちなみに「ブレス」は今年のポケモン映画「みんなの物語」の主題歌になっていて、この映画の舞台が「風祭り」なるものが行われる風の街。こんなにイントロから夏の太陽と風を感じさせるのも納得。


歌詞

 岡野さんの爽やかでのびやかな歌声に騙されて一瞬気付かないけどだいぶ捻くれている。捻くれながら「君」を肯定する。このめんどくささがTHE新藤晴一といった感じ。
 「ブレス」の歌詞には「ヒットチャート」という言葉が何度か出てくるが、過去には「ダイアリー 00/08/26」という楽曲に出てきたり本人の発言の中にも印象的に出てきたりしている(15周年ライブ「惑ワ不ノ森」など)。デビュー以来、19年目の今も「ヒットチャート」に名前を連ねる楽曲を発信し続けているポルノだからこそ響くものがある。
 「簡単に重ねるんじゃない 君を すぐに変わっていくヒットチャートなんかに」という歌詞には「ヒトリノ夜」の「100万人のために唄われたラブソングなんかに 僕は簡単に自分を重ねたりはしない」という部分に通ずるものもある。
 「向かい風は後ろ向けば追い風になる 視線向けた方角には明日があると信じる」という、視点を転換させる歌詞。追い風よ吹けというのではなく、向かい風のなかを行けというのではなく、向かい風を追い風にする(「視線向けた方角には明日がある」と言い切らずに「と信じる」が続くのも新藤さんらしい)。こうした発想の転換は最近だと関ジャニ∞に提供した「応答セヨ」の歌詞にも出てくる。「ピントずれた望遠鏡 映し出す後悔 灰色の景色にうかぶ昨日の僕 いっそ目を閉じちゃって 見たかった景色を心に描こう 誰にも邪魔なんかさせたりしない」という部分だ。昔の新藤さんにはこういった歌詞の印象はあまりないから、最近の傾向なのかなとも思う。
 「ありのまま 君のままでいいんじゃない」という、「君のままでいい」と言い切らないところが新藤さんの捻くれた部分でもあり優しさでもあるなぁと感じる。なんていうか、同じ目線で話している感じがする。私は新藤さんの歌詞は「寄り添う愛」だと思っていて、「君のままでいいんじゃない」という言い切らないかたちは、この歌詞の語り手(一人称が出てこないので「語り手」と呼ぶ)が聴き手と遠くない存在であることを表しているように思える*1

 そんな曲でありながら、もちろん映画主題歌としての機能もしっかり果たしている。新藤さんの作詞したドラマ・アニメや映画とのタイアップ曲のやばいところは、楽曲だけ聴いてもタイアップ作品からは独立した良さがあるにもかかわらず、タイアップ作品とともに聴くと単独で聴いていたときとは違った発見がありまくることだ。今回も主題歌としての役目を果たしまくっている。「君」に寄り添う歌詞である「ブレス」は映画に寄り添う楽曲でもある。
 映画は「みんなの物語」というタイトル通り、主要な登場人物それぞれが主人公となりうるような背景を持っている群像劇だ。みんな何かに悩んで、上手く前に進めないままでいる人たち。
 だから主題歌である「ブレス」は「君」のもつネガティブな部分すら「君の大事なカケラ」と歌う。「君」の肯定する。でも、そのままでいいと歌ってはいるが、「君」の人生のつらさを肩代わりしてくれるわけではない。「君」が「君のまま」でいることを肯定することに、それ以上の意味は込められていない。「君は君のままでずっと 行くんだから」という歌詞は、「君」が何者にもなれないことと同義でもあるように見える。「君」は「君」以外の何者でもなくて、それはつまり「君」が他の誰とも違う存在であることとも同義なのだ。自分を受け入れることは、前に進むことにつながる。詳しくは映画を観ればわかるので是非とも映画館へ!
 歌詞の最後には「出会いとさよなら繰り返す 旅人のように」とある。よくよく考えてみると、アニメ「ポケットモンスター」とは出会いとさよならを繰り返す旅人の物語である*2。映画の内容だけでなく、アニメの物語そのものすら含む歌詞になっている。


MV


ポルノグラフィティ 『ブレス』(Short Ver.)

 

 端的に言ってパパ。ポルノのお二人のパパな表情を合法的に見られる最高のMV。
 こういったシンプルな曲はシンプルなMVになる確率が高いし、アー写もシンプルだったし、「カゲボウシ」のようなMVが来るのかなと予想していたらいい意味で裏切られた。最初はカメラが揺れているので何かな?と思ったら子供が撮っている……!監督においしいハムを贈らせてほしい。
 にこにこと微笑みながら歌う岡野さん、目線を合わせてカメラを覗きこみながらギターを弾く新藤さん。ていうか前回のシングル「カメレオン・レンズ」であんな大人のセクシーな魅力(爆イケ)を見せておいて、次のシングルではパパなのやばくない?振り幅が大きいにもほどがある。そもそも不倫ドラマ主題歌の次が国民的アニメの映画主題歌だもんな……。とりあえず「カメレオン・レンズ」のMVも貼っておきます。


ポルノグラフィティ 『カメレオン・レンズ』(Short Ver.)


 たいていの場合、シングル初回限定盤にはMVのフルバージョンがついているのだが、今回の初回限定盤には昨年の夏フェス映像がついているのでまたMVのフルを見られていない。どっかで見せて!


初回限定盤特典

 昨年の夏フェス「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2017」に出演した際の映像がフルで入っている。フルで。もっかい言うけど、フルで。9曲。全部。やばい。で、その9曲っていうのが以下の9曲。

 1.今宵、月が見えずとも
 2.メリッサ
 3.アゲハ蝶
 4.THE DAY
 5.渦
 6.Mugen
 7.オー!リバル
 8.ハネウマライダー
 9.アポロ

 やばい。普段ポルノを聴いていなくても知っている曲ばかりではないだろうか。盛り上がらないわけがない布陣。ロイヤルストレートフラッシュ。でありながら、1999年のデビュー曲から2016年の楽曲(フェス当時の最新楽曲のひとつ前)まで含む幅の広さ。これらの楽曲を全力でパフォーマンスする2人がめちゃくちゃに恰好いい。岡野さんの歌の上手さがどうかしてる。ステージを走り抜け跳びながら歌っていてわけがわからない。何言ってるかわかんないだろうしとにかく見てほしい。
 それに、「ポルノがロッキンで6万人を前にカマす」っていう、この光景が見られるの、本当にやばい。歴史が動いた瞬間だと思う。
 税込2000円でこの9曲のライブ映像がついてるとかお得でしかないので是非買ってください。


カップリング

 カップリング曲は「海月」と「ライラ」の2曲。どっちもやばい。

 「海月」はポルノの楽曲にしては珍しく低い歌声から静かに始まる。海の底のような静謐なところから、サビに向けて光が射す水面が見えてくるようなイメージ。打ち込みのリズムが心地よく、サビは踊れちゃうくらいにノれる曲。近年のポルノは打ち込みを多用している印象があるけれど、まさかこんな曲がポルノとして出る日が来るなんて。素人なので詳しくはわからないけれど、印象としてはPerfumeの「TOKYO GIRL」とかと近い雰囲気の楽曲だと思う*3
 歌詞は、岡野さんの歌詞に特有の「まわる」「めぐる」世界観。「ROLL」や「むかいあわせ」「wataridori」など、岡野さんの歌詞には「まわる」「めぐる」世界観で描かれているものが特徴的だ*4。「海月」は歌詞にも「輪廻転生」と出てきている。歌詞は非常に重厚で難解なのに、岡野さんの軽やかな声で踊れそうなくらいの曲調とも合う。
 「この世界に鳴り響いてる そのほとんどの 音が邪魔で」の部分で、周りの音がほとんどなくなるのもすごくいいなと思った。

 で、「ライラ」。ポルノグラフィティ史上最も現在地がわからない楽曲。ロシアだしボカロだし歌謡曲だし中島みゆきだしそれら全部を足したまま割らないでいるとポルノグラフィティになる。よくわかんないでしょ?とりあえず一回聴いて。
 AメロBメロの、メロディに対して言葉数のほうが多い感じ、どこかで聴いたなと思ったけれど吉田卓郎さんトリビュートアルバム『今日までそして明日からも、吉田拓郎 tribute to TAKURO YOSHIDA』にてポルノがカバーした「永遠の嘘をついてくれ」だった。この楽曲は中島みゆきさんが吉田卓郎さんに提供したもので、「ライラ」の言葉数の多い感じが私の中島みゆきさんの楽曲のイメージと重なった。森山直太朗さんもたまにそういう楽曲がある気がする。魂が叫ぶタイプというか。
 で、この「なんかよくわかんないけどどこか異国の世界観が確立されていて聴き手は物語を読むように楽曲を聴く」感じや民族音楽を取り入れた感じはどことなくボカロ曲っぽい。今までのポルノの楽曲にも沢山そういう楽曲はあったけれど、民族音楽のリズムや楽器を取り入れながらも現代的なJ-POPのかたちにしてきた。でも今回はそうではなく、もろに民族音楽の雰囲気を残している。ていうかロシア民謡コロブチカ」を使っている。この感じ……私がよく聴いてたボカロと重なる……
 ぱっと聴いた感じはスペインっぽいのかと思ったけれど、よくよく聴いていると「スパシーバ」*5って言ってるっぽいから物語の舞台はロシアなのかな、とうっすら想像する。ロシアの酒場で踊る人々。
 そしてポルノ史上最長となる台詞の部分。台詞っていっていいの?もはやこれ作詞というよりも新藤さんによる主演・岡野昭仁の戯曲なのでは?岡野さんの表現力がやばい。聴いていて鳥肌が立つ。
 これだけの要素てんこ盛りでありながら、「ライラ」は圧倒的にポルノグラフィティの楽曲として成り立っていて、それって多分ポルノが19年間積み上げてきたものがあるからなんだろうなと思う。ジャンルに縛られない楽曲をつくり続けてきたからこそなのだろうと。歌謡曲っぽい感じもフォークっぽい感じもボカロっぽい感じもロシア民謡っぽい感じも全部全部ひっくるめたら「ポルノグラフィティ」になる。

 

 ポルノグラフィティって今年20年目のはずなのにまだこんな新しい引き出しがあるの?こわい。この先もずっと期待しかない。
 「海月」は近年のポルノがやってきた楽器だけでは出せない音の世界の進化系だし、「ライラ」はポルノが得意としてきた民族音楽っぽさと歌謡曲っぽさの融合の進化系といった印象。特典映像も含め、今までやってきたことの積み重ねってこういうことなんだなぁ、とここまでの時に思いを馳せたくなる。そんなシングルです。

 


 カップリングまで全部まとめた感想を書こうとしたらなかなか長くなってしまった。いいから聴いてください。こちらからは以上です。

*1:一方で岡野さんの歌詞はもっと大きな存在の視点から描かれているのが特徴的で、個人的には「包み込む愛」だと思っている

*2:行く先々の街で新しい人と出会うし、一緒に旅をすることもあるし、その仲間ともさよならをする場面もある

*3:「TOKYO GIRL」を検索したらフューチャー・ベースってジャンルを取り入れているって書いている人もいたけど「海月」もその仲間?

*4:この話はまたどこかで掘り下げたいので今はこのくらいで

*5:ロシア語で「ありがとう」の意