自担の本棚を読む

 本棚を晒すことは脳を晒すことと一緒、とまではいかないだろうけれど、その人の考え方や好きなものを知る手掛かりにはなると思う。
 というわけで、加藤さんのオススメしていた本・本棚にあった本を読んでみることにした。以前から読もう読もうとは思っていたけれど、「本を読む」という習慣が失われて久しく、なかなか手が出せない。数冊は読んだけれど、習慣化には至らない。というわけで、加藤さんのお誕生日までにできる限り読もう!と目標を決めてみた。目標を決めてみると、スマホを触る時間を本にあてるようになったり、それまでと違ってとても読みやすくなった。目標って大事。
 せっかく読んだので、自分用の記録も兼ねて感想をメモしておく。加藤さんのオススメする本・本棚にあった本を何か読んでみたいけど多すぎてどれから手をつけていいのか、と悩んでいる方の参考になればという気持ちも込めて。

 

夏への扉ロバート・A・ハインライン

 紹介された媒体:タイプライターズ初回放送でのオススメ10冊ほか多数
 
あらすじ(Amazonより引用)
ぼくの飼っている猫のピートは、冬になるときまって夏への扉を探しはじめる。家にあるいくつものドアのどれかひとつが、夏に通じていると固く信じているのだ。1970年12月3日、かくいうぼくも、夏への扉を探していた。最愛の恋人に裏切られ、生命から二番目に大切な発明までだましとられたぼくの心は、12月の空同様に凍てついていたのだ。そんな時、「冷凍睡眠保険」のネオンサインにひきよせられて…永遠の名作。


 SFの有名タイトルのひとつ。私は基本的には国内SFが好きなのだけれど、海外でも名作とされるものは読んでおいたほうがいいだろうな……と思いつつ有名すぎて逆に手が出せなかった一冊。加藤さんが何度かオススメに挙げている本だったのでようやく読んでみた。
 翻訳の文章に慣れていないこともあり途中まではなかなか読み進められなかったが(でもそこまで文章が難解なわけではない)、コールドスリープから目覚めた主人公があれこれ動き始めたあたりからだんだんと話に引き込まれて終盤は一気に読んだ。伏線が回収されていくのが心地よく、名作とされる理由がよくわかった。もっと早くに読んでおけばよかった……!
 SFというと固いイメージがあるかもしれないが、この作品には割とわかりやすいメジャーなネタが使われているので(この作品が書かれた時点ではメジャーではなかったのかもしれないが、現在ではメジャーとなっているネタ)、さほどひっかかりを感じずに読めるのではないかと思う。
 何度かオススメに挙げている『華氏451度』もそうだが、加藤さんの中で名作SFが流行った時期があったのだろうか?他に何を読んだことがあるのか教えてほしいところ。
 読後感も爽やかだし、あと猫が可愛い。ねこ。

夏への扉 (ハヤカワ文庫SF)

夏への扉 (ハヤカワ文庫SF)

 

 

 


『殺戮にいたる病』我孫子武丸

 紹介された媒体:SORASHIGE BOOK(2016/07/31 放送)

あらすじ(Amazonより引用)
永遠の愛をつかみたいと男は願った――東京の繁華街で次々と猟奇的殺人を重ねるサイコ・キラーが出現した。犯人の名前は、蒲生稔! くり返される凌辱の果ての惨殺。冒頭から身も凍るラストシーンまで恐るべき殺人者の行動と魂の軌跡をたどり、とらえようのない時代の悪夢と闇を鮮烈無比に抉る衝撃のホラー。

 

 以前からタイトルも作者名もよく聞く本だったので「たぶん講談社ノベルスから出てたな……」というおぼろげな記憶をもとに検索するとやっぱり講談社ノベルスから出ていた。私は講談社ノベルスには絶対なる信頼をよせているので、ラジオを聞いてすぐ文庫版を購入し読んでみた。
 いわゆる叙述トリックもの。読み終わった後には気になる部分を読み返して「ここで騙された……」と辿りたくなってしまう。ネットで検索すれば「ここが怪しい描写だぞ!」と教えてくれているブログなども見つかるので、一度読んだら検索してみるのもアリかと。答え合わせみたいな感覚で楽しい。
 グロ描写(割とえぐめ)が結構多めなので、苦手な人はご注意。結構グロ描写がきつくてぞわぞわしながら読んだのだが、ラストもそして読後もなんだかぞわぞわした感じが続く。個人的には騙される快感よりもグロ描写の印象が強い。でもこのぞわぞわする気持ち悪さも含めて、読者を突き放して終わるようなラストも面白い。ちょっと待ってよ!と思ってもそれ以上物語は紡がれていないのだ。

殺戮にいたる病 (講談社文庫)

殺戮にいたる病 (講談社文庫)

 

 


華氏451度』レイ・ブラッドベリ

 紹介された媒体:朝日新聞コラム(コラム別に読む : 新生活 人生を変える本との出会い - 加藤シゲアキ(アイドルグループ「NEWS」) | BOOK.asahi.com:朝日新聞社の書評サイト)など多数

 

あらすじ(Amazonより引用)
華氏451度──この温度で書物の紙は引火し、そして燃える。451と刻印されたヘルメットをかぶり、昇火器の炎で隠匿されていた書物を焼き尽くす男たち。モンターグも自らの仕事に誇りを持つ、そうした昇火士(ファイアマン)のひとりだった。だがある晩、風変わりな少女とであってから、彼の人生は劇的に変わってゆく……本が忌むべき禁制品となった未来を舞台に、SF界きっての抒情詩人が現代文明を鋭く風刺した不朽の名作、新訳で登場!

 

 本を読むことが禁じられた近未来の世界の話。本による思考が人を不幸にする、という考え方に少しぞっとした。しかし、それでも本に魅力を感じてしまう主人公を見ているとどきどきする(最初から本好きなのではなく、一度興味を持ったら戻れなくなった感が更にいい)。読み進めるうちに「この残りページ数でどのように終わるのだろう?」と思っていたが、終盤に出てくる人たちがものすごく恰好良くてテンションが上がった(加藤さんも多分こういうの好きなんじゃないかな?と勝手に想像した)。ユートピアディストピア小説が結構好きなので面白く読めた。
 ぐるぐるするような比喩表現が多いので少し読みにくい気はしたけれど、それもまた文章だから味わえる美しさのひとつのようにも思えた。近未来の物語なので現実には存在しないものも出てくる(「巻貝」とか)。なんのことを言っているのかわからないときは検索したら本好きたちが書いたブログが沢山出てくるのでちらっとでも読んでみるとわかりやすくなるかもしれない(私が古めの海外作品を読むときはだいたいやる手法)。
 加藤さんが読んだのは旧訳のほうのようだが(タイプライターズで持参したのは旧訳版だった気がする)、見当たらなかったのでとりあえず新訳で読んだ。一部の単語が異なっているが(「fireman」を旧訳では「焚書官」、新訳では「昇火士」とする等)、まぁ致し方ない。ところで「fireman」(本来は消防士=消火する人だがこの本の中では本を焼く仕事をしている人のこと)を「“昇火”士」と訳すのめっちゃセンス良くて好き。
 また、作中には様々な本からの引用がある。元ネタがわかるのも一部あったが、ほぼわからなかったので知識があればもっと楽しいんだろうな……と思ったら巻末に引用一覧が載っていた。ありがたい。こういう引用ネタが仕込んである作品って(特にサブカルネタを引用する場合は)好き嫌いが分かれそうなものだけれど、加藤さんはお好きだろうか。好きだったら是非「THANATOS」シリーズ(汀こるもの講談社)を読んでほしい……これでもかと散りばめられたサブカルネタの数々がわかるととても楽しい作品です。わからないとちょっと悔しくなる。

 


『命売ります』三島由紀夫

 紹介された媒体:【特集 ちくま文庫30周年記念】 『命売ります』は味方か敵か/加藤シゲアキ(筑摩書房 PR誌ちくま)

 

あらすじ(Amazonより引用)
目覚めたのは病院だった、まだ生きていた。必要とも思えない命、これを売ろうと新聞広告に出したところ…。危険な目にあううちに、ふいに恐怖の念におそわれた。死にたくない―。三島の考える命とは。

 

 日本の有名作家の作品に凝っていた時期に三島由紀夫の作品もいくつか読んでいたが、これは初めて読んだ。
 加藤さんも書評で書いているが、これは「エンタメ小説」だ。面白くてどんどん読み進めてしまうタイプの話だった。スパイだとか吸血鬼だとか、普通に考えればなかなかありえないものがどんどん出てくるのだが、なにしろ主人公が「新聞の字がゴキブリになってしまって絶望した」という理由で自殺しようとして生き延びちゃったから命を売ることにした、という狂いようだから、何が出てきてもなんだか納得できてしまう。あまりにも主人公が堂々としているから、常識的な捉え方がどんどん剥がされて物語の世界に引き込まれる。
 読みやすい文章だけれど、時折詩的な表現が出てくるところがすごく好き。文章が比較的平坦に進んでいるからこそ、とても美しく目立つ。
 あと主人公の女性の扱いが割と好き。羽仁男のような男性が好きかどうかと言われたら別に好きではないけれど、フィクションにおけるこういう人を見ているのは好き。
 三島由紀夫ときいて「難しい文章はちょっと……」と思う人がいたら怖れることなく手を出してほしい一冊。軽快な文章で、物語もエンタメで、とても楽しく読めると思う。個人的には同じく三島由紀夫作品のなかでエンタメ色の強い『夏子の冒険』もオススメ。

命売ります (ちくま文庫)

命売ります (ちくま文庫)

 

 


虐殺器官伊藤計劃

 紹介された媒体:GQ JAPAN 2016年8月号

 

あらすじ(Amazonより引用)
 9・11以降の、“テロとの戦い”は転機を迎えていた。先進諸国は徹底的な管理体制に移行してテロを一掃したが、後進諸国では内戦や大規模虐殺が急激に増加していた。米軍大尉クラヴィス・シェパードは、その混乱の陰に常に存在が囁かれる謎の男、ジョン・ポールを追ってチェコへと向かう…彼の目的とはいったいなにか?大量殺戮を引き起こす“虐殺の器官”とは?ゼロ年代最高のフィクション、ついに文庫化。

 

 映画は見たし、『ハーモニー』『屍者の帝国』は既読。GQ JAPANでの紹介記事では知らない作家ならまずデビュー作を読んでみては?って話をしていたので、できることなら最初の一冊にしたかったなと今更思う。
 翻訳モノではないのに、文章の硬さとわざと開かれた漢字(「ぼく」とか「ことば」とか)がどことなく翻訳的。でも読みにくいとは思わないのはやはり元々日本語で書かれているからだろう、という不思議な感覚だった。
 物語は、先を読み進めるにつれどんどん怖くなってくる。綴られる理屈がとても理路整然としていて、本当に「虐殺の文法」というものがあるように思えてきてしまう。しかも、物語の舞台になっているのは私が生きている現実とよく似ていて、私の知る現実の先にあるような「ありえたかもしれない未来」が描かれている。何気ないことばの中に、私の知らない何かが潜んでいるのかもしれない。そんな気持ちになるし、終わり方には少しぞっとした。
 この作品にはいろいろな要素が描かれている。たとえば、ことばや思考といったものについて。たとえば、リアリティとファンタジーのどちらともつかない近未来を表現するさまざまな技術について。たとえば、戦うことの是非について。たとえば、守りたいものを守るということについて。そのどれもについて、「考えてみるといい」と頭の中で声が響くかのようだった。単純に素晴らしいエンタメとして成り立っていながら、次から次へと思考を呼び起こす。とても不思議で、とても面白い作品だった。

虐殺器官〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA)

虐殺器官〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA)

 

 

 


<番外編>

 小山さんが読んだと言っていた本の感想も。

『少女』湊かなえ

あらすじ(Amazonより引用)
親友の自殺を目撃したことがあるという転校生の告白を、ある種の自慢のように感じた由紀は、自分なら死体ではなく、人が死ぬ瞬間を見てみたいと思った。自殺を考えたことのある敦子は、死体を見たら死を悟ることができ、強い自分になれるのではないかと考える。ふたりとも相手には告げずに、それぞれ老人ホームと小児科病棟へボランティアに行く──死の瞬間に立ち合うために。高校2年の少女たちの衝撃的な夏休みを描く長編ミステリー。

 

 ずっと昔に個人的な女の子がメインの小説ブーム(主に桜庭一樹さんの小説ばかり読んでいた)が来たときに読んだものを、小山さんが読んだという話をきいて久しぶりに読み返してみた。
 私はフィクションの中の女の子たちについて、「少女とは歪んでいて残酷で醜い、それこそが少女の可愛さの源」みたいなことを考えている節があるので、そういう小説が読みたい時期があって、この『少女』はまさにぴったりだった。
 少女の世界は結局のところ少女のみで構成されていて男も大人もどうでもいいんだ美しい……という気持ちに浸っていたところにラストのイヤミス感。でもそれさえ私の思う「少女」像と当てはまってしまう。私にとっては物語そのものの面白さよりも「少女」という存在の印象が強く残る作品だった。

少女 (双葉文庫)

少女 (双葉文庫)

 

 


『聖母』秋吉理香子

あらすじ(Amazonより引用)
東京都藍出市で、幼稚園児の遺体が発見された。被害者は死後に性的暴行を加えられていた。
事件のニュースを見た主婦・保奈美は、大切なひとり娘は無事だろうか、と不安に陥る。
警察は懸命に捜査を続けるが、犯人は一向に捕まらない。
娘を守るため、母がとった行動とは。『暗黒女子』の著者が放つ驚愕の長編ミステリー!

 

 叙述トリックものだということはわかっていたので「騙されるまい」と思いながら読んだが、まぁ騙された。なんとなくは予想がついていたものの、女の狂気みたいなもののほうが強く目についてしまい、まんまと騙された。ちょっと悔しい。
 これを読んだ後で加藤さんが小山さんに『殺戮にいたる病』をすすめたという話をきいたのだが、『聖母』を読んだ小山さんに『殺戮にいたる病』を薦めたくなる加藤さん、わかる~~~!!!という気持ちになった。わかる……わかるよ……めっちゃわかる……ネタバレしたくないから言わないけど気になる方は両方読んで。
 小山さんは割と女性作家やイヤミスと呼ばれるものが好きなのだろうか。個人的には小山さんに『殺人鬼フジコの衝動』をオススメしたい。めちゃくちゃ後味が悪いけど、本読みハイみたいな状態になってなんだかテンションが上がって読み終わったら元気になった(感じ方には個人差があります)。

聖母

聖母

 

 


 本当は加藤さんの誕生日直前にあげようと思っていたのですが、予想より速いペースで読めているので(とはいえ5月以降に読んだのは3冊だけど。残りは過去にメモを残していたやつ)、一旦まとめておくことにしました。久々に集中して本を読んだけれど、やっぱり面白いし楽しい。このまままた本読みな生活に戻りたい。

 また読んだ本が溜まったら書こうと思います。